- 方言と福澤諭吉
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一週間にわたって展示作業にあたり、福岡を堪能させていただきました。中でも最初の数日は博多弁にどっぷり。といいますのは、作業を担当して下さる美術品専門業者が地元の方ばかり。体育会系というか職人肌の方ばかりで、方言も念が入っています。周りがみんなこういう方々で、東京から行った者はほとんどいませんので、気付くと自分のイントネーションがおかしくなってきて、時々赤面します。でも、非常に心地よくもあり、楽しみの一つでした。今回出会った言葉では「なんちゃない」というのがとりわけお気に入りとなり、むやみに使ってみたりしています。
ところで、福澤諭吉という人は、どういう言葉を使ったのでしょうか。俗以上に俗であろうとした福澤ですから、当然その姿勢は言葉にも及んでいたはずです。福澤は大阪の生まれで、家族もみな大阪になじんでいたので、言葉遣いも最初は大阪弁だったようです。父百助が、福澤1歳半の時に急死し、一家が大分の中津に帰ると、言葉遣いはじめ何もかも大阪風であったため、一家はなじめなかったと、『福翁自伝』の中に記されています。その後、福澤は再び大阪に出て適塾に学びます。この頃福澤がどんな言葉を遣っていたのかは、よくわかりません。手塚治虫の『陽だまりの樹』というこの頃の適塾をかなり丹念に描写した漫画に登場する福澤は、標準語をしゃべっていますが、時々大阪や九州の言葉がまじっているようです。手塚先生もどう描くか、あれこれ悩まれたのかもしれません。
しかし、福澤の後半生はもっぱら江戸・東京生活です。自然東京の言葉になじんだ福澤は、大工さんなどに親しみ、かなりきつい「べらんめえ」でしゃべることもあったと伝えられています。そのあげく、口癖は「途方もねえ」だったとか。その福澤の言葉を、こんにち知る手掛かりはいくつかありますが、なかでも『福翁自伝』は口述筆記をベースに作られた本ですから、だいたい話し方の雰囲気が残っているものかと思われます。たとえば、福澤が江戸に出て来て、のこぎりの歯を研ぐためのやすりの技術に驚いた話をしているところでこんな表現があります。
「わたしが江戸に来てまず大いに驚いたことがあると申すは、ただのやすりは、はがねをこうしてこうやればわたしの手にもオシオシできるが、のこぎりやすりばかりはむずかしい」
このオシオシというのは中津の言葉で「どうやらこうやら」という意味とのこと。福澤の手紙にも時々こんな調子で中津の言葉が混じっていて、意味を取るときに行き詰まったりします。
福澤の生い立ちは、彼を自然に様々な言葉になじみ、自然に使い分ける人物に育て上げたのではないかと思います。自伝には、若き日の福澤が遊女や商人のふりをして「偽手紙」を書く話が2つも出て来ますが、こういったエピソードも、言葉遣いを相手にあわせて変えることができる人物としての福澤を伝えているように思います。
さて、5月3、4日の博多どんたく。残念ながら雨でしたが、はじめてその雰囲気をのぞくことができました。もともと町人の祭であるどんたくの中でスタートが切れたことは、福澤展にもぴったりだったといえるかもしれません。
写真は九州特別展示コーナーと、どんたくの様子。
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舌代 ~ごあいさつ~
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